アンブロサスのトークンエコノミーについて

アンブロサスのブロックチェーン・ソリューション設計者であるRoger Wattenhofer教授(以下ロジャー)が最近、アンブロサスのクリプトエコノミクスの設計に関して彼が果たしている役割についてや、ブロックチェーンや産業の現状についての考えに関する、数々の質問にていねいに答えてくれました。ロジャー教授はアンブロサスのソリューション設計者である他に、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)の分散コンピューティング研究室におけるフルの教授、室長でもあります。その前には、彼はワシントン州レドモンドでマイクロソフトリサーチ、ロードアイランド州プロビデンスでブラウン大学、オーストラリア・シドニーのマッコーリー大学で数年間働いていました。彼はまた「Distributed Ledger Technology: The Science of the Blockchain」(分散型台帳技術:ブロックチェーンの科学)という本を出版していて、この本は簡体字中国語に翻訳されています。

インタビュアー:
こんにちは、ロジャー。ご一緒できて嬉しいです。今日はインタビューにお時間を取っていただいてありがとうございます。

ロジャー:
よろこんで。

インタビュアー:
ではまずあなたのバックグラウンドや、ブロックチェーンを形作るのに果たしてきた役割についてお話しましょう。マウント・ゴックスの隠蔽を明らかにするのにあなたが関わっていたとお聞きしました。また「ブロックチェーンの科学」というとても推薦されている本をお書きになったそうですね。分散コンピューティングにおけるあなたのバックグラウンドや、今の興味がどこにあるのかについてお聞かせいただけますでしょうか。

ロジャー:確かに2014年の3月に私たちは、トランザクション展性(てんせい、Malleability)はマウント・ゴックスの大きなビットコイン喪失に責任を負わないということを示すペーパーを書きました。これが出たとき、このペーパーはメディアの関心を大きく集めました。なぜならマウント・ゴックスが語っていた事と矛盾していたからです。しかしながらより重要な科学的貢献はおそらく、2015年のいわゆる「レイヤー2」の支払いネットワークについての導入でしょう。このとき私たちは「Duplex Micropayment Channels」(2層の少額支払いチャンネル)というペーパーを出版しました。その2-3ヶ月後に、それとは少しだけ違う提案が行われました。それが「ライトニング」として知られているものです。

より一般的に言うと、私の科学的関心はとても幅広く、あらゆる種類のネットワークや分散型システムに広がっています。仮想通貨(暗号通貨)、ブロックチェーン、コンセンサス、モノのインターネット(IoT)はアンブロサスの興味分野とよく合っています。しかし私のグループでは、ポジショニング・システム、ワイヤレスネットワーク、ソーシャルネットワーク、ディープ・ニューラルネットワーク、オンライン・ネットワーク・アルゴリズムの研究も行っています。

インタビュアー:
アンブロサスでのあなたの役割から想像すると、あなたはクリプトエコノミクスの分野にも手を広げたのではないでしょうか。この新しい形の経済の出現をあなたがどのように経験したきたのか、分散型システムも関わっていますが、またクリプトエコノミクスの主要な利点は何かについて少しお話いただけますでしょうか。

ロジャー:
はい、私は常にコンピュータを使ったゲーム理論やメカニズムデザインに興味を持ってきました。ゲーム理論では、あなたは自己中心的なプレイヤーが存在するシステムを理解し、分析したいのです。メカニズムデザインでは、あなたは自己中心的なプレイヤーに対処する構造、つまり自己中心的であることが利益にならないような構造を設計したいのです。ですからメカニズムデザインは多くのブロックチェーン・システム、アンブロサスも含めてですが、において主要なビジネスです。これはブロックチェーンの世界ではクリプトエコノミクスとして知られています。

インタビュアー:
このバックグラウンドを考えると、あなたがアンブロサスのクリプトエコノミクスというとてつもない課題に取り組んでいたのは間違いないでしょう。多くの法律、企業、経営に関する、頭に留めておくべきことがあったでしょうから。アンブロサスのクリプトエコノミクスモデルの設計に関して、具体的にどのように行ったのでしょうか。解決するべき大きなジレンマはありましたか?

ロジャー:
アンブロサスではあらゆる種類の優秀な専門家たちがいて、法律、企業、経営という側面についてずっと詳しいのです。これまでの私の役割は、単に設計のためのピースを提案し、そのアイデアにはいくつかのメリットがあることを他の人に説得しようとすることでした。それからアンブロサスの研究者や技術者たちが好きなアイデアを採用し(そしてそうではないアイデアは捨てます)、設計を提案してきます。その時点で私が、再度欠点や改善点を見つけようとします。卓球のゲームのようなものですね、ヒットもあればミスもあります。

インタビュアー:
同じ話題についてですが、あなたがゲーム理論の要素をアトラス・マスターノードの設計に入れ込んだと私は考えています。それについての考えを少しご説明いただけますか?また、アンブロサスがインダストリアル・グレード・サプライチェーンに取り組んでいるという観点から、なぜプルーフ・オブ・オーソリティ(PoA)のコンセンサス・アルゴリズムが必要なのでしょうか?

ロジャー:
2つめの質問から先に答えさせてください。私の意見では、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)ははっきり言って死ぬ運命にあります。プルーフ・オブ・オーソリティは実はずっと古いパラダイム(理論的枠組み)ですが、PoWがPoAよりも良いというシナリオは、私にはほとんど考えられません。PoWは1990年台始めにやっと導入されましたが(私の2人の同僚によって、Eメールのスパムへの見込みのある対抗手段として)、今も分散型コンピューティングにおけるほとんど全ての学術的研究は、PoAに焦点を当てています。完全にパーミッションレスなシステムが必要でない限り、PoWマイニングはただエネルギーの問題になるだけです。

最初の質問にお答えしましょう。たしかに、私はいくつかの場所でマーケットを開くことを考えるようにチームを説得しようとしました。例えばアトラスノードはサービスを提供するので、私の意見では彼らは自分の価格を決めるのに自由であるべきです。このような新しい領域では、サービスの適正価格が何であるべきかを理解するのはしばしば難しいです。ですから、マーケットを持つことがしばしばエレガントなソリューションであるのです。ですが全て言えることですが、長所と短所があるのです。

インタビュアー:
アンブロサスネットワークの成長が楽しみですが、ネットワークのスケーラビリティ(拡張性)に関して、モデルの中に設計したものは何かありますか?トークンがどれだけ存在するのか、どれだけバーンされるべきなのか、いくつのノードが同時にネットワーク上に存在できるのかということに関連して、あなたはどうやって丁度よい釣り合い(均衡)を見つけたのでしょうか。アンブロサスのクリプトエコノミクスに関して、あなたが心に描く意図された長期のゴールについてお聞かせ頂けますでしょうか。

ロジャー:
はい、私たちはそれら全ての質問について議論してきました。スケーラビリティは文脈ごとに意味が違うので難しい言葉です。私たちが望むシステムは高スループットであるなど、素早く反応するものです。しかしながらブロックチェーンという文脈においては、スケーラビリティがしばしば意味するのは「多数のコンセンサス・マシーン」です。私はいまだに、なぜ多くのノードがシステムをより安定させるのかが分かりません。私たちの議論では、私は少数のコンセンサス・ノード(アポロ)を持つことに賛成しており、でもそれは独立していて信用出来るものであるべきです。世界の多くのブロックチェーン・システムは、何千ものノードを欲していて、その理由はそれが「安全性を向上させる」からです。でももし、それらのほとんどが同じ腐ったアップデートをインストールして、台無しになったらどうなりますか?私はまた、トークンのバーンにも反対しました。経済的な観点から、これはデフレを促進するためリスキーだからです(注.最新のクリプトエコノミクスのアップデートによると、トークンのバーンはブロック報酬メカニズムに置き換えられました)。

先程のアトラスについての「どれくらいの数か」という質問に関してですが、私が言うところの「マジック・ナンバー」に関して、私はいつも心配しています。その代わりに私たちはマーケットを持つべきなのです。そしてこれらのマーケットが、適正な数や価格を決めるのです。そうすれば私たちは本当の釣り合いを得ることが出来ます。私はアポロノードが少数のみ存在するべきであると確信していますから、アポロノードを動かすことが魅力的すぎるようにはしない方が良いと主張します。ビジネスというよりむしろ、アポロノードを動かすことは名誉であるべきなのです。中心にある主なサービスを提供するのはアトラスノードですから、手数料の大きなシェアを得るべきなのは彼らです。でもこれは私の意見でしかありません。最終的にはチーム全体がこれらの問題を決定するでしょう。

インタビュアー:
最後になりますが、仮想通貨の分野において何が起こっているのかについて、学問世界からの認識はどのように進んでいますか?あなたはビジネススクールを持っていて、そこの関心はブロックチェーン、ファイナンス、経済学の他にも、コンピュータ科学、分散型コンピューティングの学部にも渡っています。学問世界が仮想通貨やブロックチェーンについて議論するとき、何が課題になっていますか?それはとても一般的な領域です。

ロジャー:
この話題に関して多くの学問的関心があります。私はかなり早くからこのゲームに参加しています。この主要エリアにおける私の最初の博士号の生徒はクリスチャン・デッカー(Christian Decker)でした。彼は2016年1月に卒業しましたが、たぶん世界初のビットコイン/ブロックチェーンの学術博士なのではないでしょうか。クリスチャンが去ったあと、ブロックチェーンの話題は完了し、終わったと感じていました。でも私は間違っていたのです。毎日あらゆる種類の質問や提案が、メディアや産業からやって来続けました。そんなにたくさんの関心がこの話題にあるのであれば、それをただ無視するなんてことは出来ません。ですから私の研究グループは再び、いくつかの問題点について調査を始めたのです。今はレイヤー2ソリューションに関するゲーム理論的な疑問が主な焦点です。

ブロックチェーンは学問的に健康な領域だと思います。多くの興味深い疑問が公開されていますから。他の学術エリアとの主な違いは、非学術的なコミュニティからの関心の大きさです。公開されたほとんど全ての学術ペーパーが、いくつかの仮想通貨・ブロックチェーンのブログで議論されています。一方で、ブロックチェーン・スタートアップは絶えずイノベーションを続けています。学問世界もこういった発展に付いていかなくてはいけません。ある意味、これがおそらく私の主な強みでしょう。つまり、私はブロックチェーン世界で今何が起こっているのかを知っていて、さらに分散型コンピューティングの5年間についても知っているということです。

インタビュアー:
ロジャー、今日はお時間を頂いて興味深い情報をお話してくださりありがとうございました。何が起きているかについての素晴らしい概要を知ることが出来ました。

ロジャー:
どういたしまして。自分の研究における関心事を議論できるのはいつでも幸せなことです。

元記事
Who is Who: An Interview with Prof Roger Wattenhofer